坂本鉄男 イタリア便り 求む スイス人衛兵

バチカンのサンピエトロ広場で開かれるローマ法王出席の式典に花を添えるのは、スイス人の衛兵隊である。ミケランジェロのデザインともいわれる赤・黄・青の派手な縦じまの制服を着てかぶとをかぶり、やりを持って立つ。

 衛兵隊の起源は、500年以上前の壮烈な歴史にさかのぼる。領土などをめぐる周辺国との争いが激しさを増す中、勇猛さで知られたスイス人傭兵を集め、法王ユリウス2世が衛兵隊を創設したのは1509年。27年5月6日、ローマはスペイン王率いるドイツ人傭兵軍団の大略奪を受けた。スイス人傭兵は時の法王クレメンス7世を守り、法王は聖天使城に通じる城壁上の道を抜け難を逃れたが、衛兵149人が戦死した。

 この史実を記念して毎年5月6日、スイス人衛兵の入隊式が行われる。服役期間は2年間。志願者は独身のカトリック信者で、身長174センチ以上などの条件を満たす必要がある。

 かつては除隊してスイスに帰国すれば金融機関などへの就職に有利に働き、希望者が楽に集まったが、近年は事情が変わってきているという。衛兵の勤務時間は長い上、月給も1,500ユーロ(約18万7千円)と母国の給料と比べて決して高くない。スイス人衛兵がこの先も存続するか否かは、「神のみぞ知る」である。

坂本鉄男

(2019年4月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)