坂本鉄男 イタリア便り 歴史的価値か安全か サンピエトリーノの石畳

古代、ルネサンス期、現代がごちゃ混ぜになったようなイタリアの首都ローマ。その特徴を最もよく表すのが、中心部の広場や道路に残る石畳である。

 ルネサンス期にローマの街の建築と公共施設と美観に惜しげもなく資金を投入した法王シクストゥス5世(1521~90年)は、サンピエトロ広場からローマ中心部までの道路を敷石で舗装させた。この敷石の最も標準的な大きさは、12センチ×12センチ×6センチの四角いもので、普通、サンピエトリーノと呼ばれる。昔は道路の底に砂を敷き詰め、その上に隙間がないようにこの角形の石をたたき込んだ舗装であった。砂の層がクッションになった画期的な構造で、中部イタリアの他の都市でも取り入れられた。

 だが、当時は馬車が主要な乗り物の時代である。一方、現在は数十人乗りの大型観光バスが乗客と荷物を満載して走り、工事用の大型ダンプカーが走る世の中である。敷石がぐらつき剥がれてバイクの転倒事故や死亡事故が相次ぎ、市が補修に努めても今の請け負い職人の仕事ではすぐに穴があく始末だ。

 市当局は、これまで何度もアスファルト舗装に変えようとしたが、歴史的価値を重んじる文化財保護局が許可を出さない。文化財を後世に残すには、このくらいの頑固さが必要なのかもしれない。

坂本鉄男

(2019年4月2日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)