坂本鉄男 イタリア便り いくら亥年でも

今年のえとが「亥年」でも、イノシシが豚(とん)コレラの感染源となったり、農作物に大きな被害を与えたりすると、「害獣」として見放されても仕方がない。現在、イタリア全国には100万頭という多数の野生のイノシシが生息していると推定されている。これだけ増えると大都市の郊外には餌を求めてごみ箱をあさりに来る群れが出没し始めるし、夜道を走る車に衝突する事故も多くなってきた。

; 去る1月3日の真夜中に、日本なら東名高速に相当するミラノ-ローマ間の高速道路1号線のミラノからわずか50キロの地点で、交通死亡事故が起きた。道路脇の柵をくぐって侵入したイノシシの群れに乗用車がぶつかり、後続車も巻き込み死者2人、負傷者10人を出す大惨事だった。

 古代ローマ時代からイノシシは狩猟の対象で、王侯貴族の宴会にはイノシシの丸焼きは欠かせない料理であった。だが、第二次大戦後の狩猟ブームに乗り、中欧から繁殖力の強い種類が輸入され、狩猟地に放されたためイノシシが急増したといわれている。しかも人間とは勝手なもので、狩猟ブームが去った後もそのまま放置したから今のようになってしまった。

 その上、現代のイタリア人はあまりイノシシの肉を食べないからお手上げである。

坂本鉄男

(2019年3月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)