坂本鉄男 イタリア便り カーナビ必須の田舎にあっても食べたい有名店の味

 「年末か年始は都心の有名レストランで食事を」と考える方は多いに違いない。日本では有名レストランの大半が東京をはじめとする大都市や京都といった有名観光地の中心に集まっているが、食通の国イタリアでは少々事情が違う。

 例えば、日本でも名を知られ、ミシュランでも2つ星の「ビッサーニ」は、ローマから高速道路を含め片道約130キロの片田舎にある。今でこそ小人数なら宿泊できるが、以前は夕食に行くとローマへの帰宅は夜中の1時過ぎになることが多かった。

 川魚料理で名をはせ、ミシュランの2つ星を取っている「ラ・トロータ」もローマから片道約90キロの田舎の一軒家で、カーナビがなければ到達不可能だ。

 1年に1度は行くローマから車で100キロのトスカーナ南部の温泉ホテルの周辺にも、舗装されていない田舎道を15キロほど走る人里離れた山の中に、腕の良い若手シェフの1つ星レストランが2軒ある。

 ここで紹介した2つ星レストランと1つ星レストランのいずれもがオーナー自身の所有で、高い地代や家賃を料理の皿に盛る必要がない。それだけに値段はリーズナブルだ。

 日本でも、場所は不便でも味で勝負するレストランがもっとできてよいのではないか。

坂本鉄男

(2016年12月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)