坂本鉄男 イタリア便り 「世界の救世主」に何が?

ひと昔前までは世界の有名美術品を買いあさるのは石油で巨万の富を築いた米国の財閥と相場は決まっていた。イタリアの古代ローマ以前の古墳から盗掘された貴重な彫刻が、いつの間にか米ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館に陳列されていたこともある。

 レオナルド・ダビンチが1500年ごろに描いたとされ、長年行方不明だった油絵「サルバトール・ムンディ」(世界の救世主)をめぐる取引がいわくありげと話題になっている。

 くだんの油絵は昨年11月、米ニューヨークの競売大手クリスティーズで約4億5,000万ドル(当時約508億円)で落札された。

 翌12月、落札者がサウジアラビアの王族と判明。パリのルーブル美術館の海外別館で、アラブ首長国連邦(UAE)にある「ルーブル・アブダビ」が「(油絵の)展示を楽しみにしている」などとツイッターに投稿した。

 ところが今月3日、展示の無期延期が発表された。理由は明かされていないが、AP通信は在米サウジ大使館などの話として、「サウジ王室がオークション数日前に開館した同別館の代理として絵画を購入した」と伝え、展示の延期と王室の関与を示唆した。

 いつの時代も著名な美術品の取引には、込み入った事情がありそうだ。

坂本鉄男

(2018年9月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)