坂本鉄男 イタリア便り 海水浴場の真実

 「夏休みだ。海に泳ぎに行こう」と家族一同、車に乗って出かける季節が来た。

 だが、日本と違って、イタリア全国の砂浜で自由に立ち入りできるのは、人里離れた砂浜など45%しかない。少なくとも名の知れた海水浴場ならば、日本のようにパラソルを立て、衣類を置いて海に飛び込むようなことはできない。

 イタリアの海水浴場の砂浜は業者が国から借り受けて専用の砂浜とするケースが多く、行楽客は入場料を払ってビーチパラソルや寝椅子(いす)などを借りる。

 今年の夏も、2人で海水浴に行くと、入場料・パラソル・寝椅子2脚で1日17ユーロ前後(1ユーロ=約113円)は取られる。これに脱衣場を借り、飲食をしようものなら、100ユーロでは足らなくなる。

 これらの業者は、まるで世襲のように、国から海岸線1メートル当たり平均年間25ユーロの安い賃料で借りているものが多い。彼らの収入は入場料、脱衣場利用料、飲食料金などを合わせると、年20億ユーロをはるかに上回ると推定されるが、国庫に入るのはその20分の1弱以下。

 欧州連合(EU)は、2015年までにこうした海岸の使用料を公正な競争入札にしろとイタリアに迫っているが、長年にわたる官と民のなれ合いに終止符を打てるか否か甚だ疑問である.

坂本鉄男
(8月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)