坂本鉄男 イタリア便り モグラ式バカンス

 夏休みシーズン真っ盛りである。毎年夏の初めになると理髪店や美容院での話題は決まって夏休みはどこに行くかであり、金持ちは高級避暑地の名前を得意そうに声高に挙げる。

 イタリア人は見えっ張りである。隣近所や会社の仲間が夏休みに海外旅行や避暑地に行くと聞くと自分も負けてはいられなくなる。だが休暇はあっても山や海に行くだけの経済的余裕がない場合はどうするのだろう。

 話は簡単。留守を装い、避暑に行ったと見せかけるのだ。半月ぐらい家中の窓を閉めてじっとこもり、遠い海岸や山の案内書を読み、休暇後に友人に吹聴する種を作る。

 また、時々ひそかに外出して日焼けサロン(大部分は夏休みで休業中だが)で顔や手足を焼いてくる。いわゆる、「モグラ式バカンス」を送るわけだ。

 自国民の心理に詳しいイタリア心理学協会会長の談話によると、1960年代、つまりイタリア経済の高度成長期にも5%のモグラ族がいたが、最近のような経済危機になると、15%前後の人がモグラ式バカンスを送っているのではないかという。

 今夏のローマの場合、7月下旬までの酷暑のあとはしのぎやすい日が続いた。それにしても、この夏のさなかに見えを張るのも楽ではないと感心してしまう。

坂本鉄男
(8月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)