坂本鉄男 イタリア便り バチカン放送の力

 バチカン放送は毎日30カ国語以上で放送されているといっても、わが国でこの放送を聞いたことがある人は皆無に等しいだろう。

 もっとも、1952年に開始された日本語放送は、短波放送で日本での受信が難しかったため聴取者が少なかったことと、バチカン市国の財政的理由から2001年3月をもって日本向け短波放送の歴史を閉じた。

 だが、日本語放送課は現在も存続し、課長の和田誠神父と他の課員1人に縮小されたとはいえ毎日バチカン関係・国際情勢などのニュースを編集しインターネットを通じ日本向けに配信している。

 バチカン放送の歴史は古く、法王ピオ11世が無線電信の発明で1909年度ノーベル物理学賞を授与されたイタリア人グリエルモ・マルコーニの援助を受け31年2月に放送を開始した。今年は80周年に当たるわけだ。

 世界最小国の放送とはいえ、第二次大戦中は反ナチス秘密組織に、米ソ冷戦中は東欧諸国で傍受されていた。あるイタリア人特派員が中国北部の寒村で、一人のカトリック神父に「私は短波受信機でバチカン放送を聞いているので世界情勢は全部知っている」と言われ驚いたとの話もある。

 バチカン放送の力はわれわれの想像を超えるようだ。

坂本鉄男
(3月13日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)