坂本鉄男 イタリア便り エゴイストの世界

 世の中にはエゴイストが多過ぎる。財政赤字克服のため国民が耐乏生活を強いられているイタリアで、新内閣が欧州連合(EU)でも最高額クラスの給料をもらっている国会議員の収入を引き下げ、他のEU諸国並みにしようとした。議会側は「議員歳費改定は国会の権限」との理由でさんざん抵抗した末、やっと引き下げに応じる態度を見せた。

 経済活性化対策の一環としてこれまで特権を享受してきた公証人や薬局など多くの同業組合の廃止案にも組合側は大反対した。3大労組は解雇条件の簡素化をはじめとした労働契約の改定に、組合の弱体化を恐れ反対する。彼らの姿勢を、自国が潰れたら元も子もなくなるのが分からないのかと疑いたくなる。

 だが、もっとひどいのが日本の政治家だ。国にもよるが、EUの国会議員の収入の数倍が議員1人当たりに毎年税金から支払われているとされる。日本の赤字国債総額はEU諸国とは比較にならないぐらい巨額だが、外国の銀行からでなく実質的には国民から借りているため破綻が来ないだけだ。

 東日本大震災と福島第1原発事故で国家が莫大(ばくだい)な費用を必要としているのに国会では増税案ばかり出し、議員総数の削減はおろか議員歳費の削減案など実行に移す動きは鈍い。エゴイストの最悪例である。

坂本鉄男
(1月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)