坂本鉄男 イタリア便り 天使の性別

 正月休みに日本からやってきた友人が、方々の教会と美術館でたくさんの宗教画を見てきてからこう尋ねた。「君、天使とは男なのかね? それとも女なのかね、どう思う?」
 古代の人々は洋の東西を問わず、肩に羽を生やし人間の姿をした天の使いの存在を信じていたようだ。このため、天使はキリスト教だけでなく、ギリシャ・ローマ神話にも登場する。日本の昔話でも、かぐや姫が最後に天からのお迎えに導かれて月に帰る話や、三保の松原で天人が漁師から返された羽衣をまとい天に舞い戻る話は、羽こそ生やしていないが同じ発想だ。
 わが国では天女といわれるように、女性と決まっているらしいが、天には親族がいたことになっているから、老若男女がいたはずだ。ギリシャ神話では、ビーナスの息子エロス(ローマ神話ではクピドで、英語名がキューピッド)は愛らしい少年または若者の姿で描かれている。
 カトリックでは天使は性に関係ないとされるが、「受胎告知」の絵画では大天使ガブリエルは若い美男子に、また、悪魔や竜と戦う大天使ミカエルはたくましい勇士の姿で描かれる。また、「マリアの昇天図」などでは幼子の姿で描かれた天使が多い。結局、男性にでも女性にでも、勝手に想像してよいのかも。
坂本鉄男
(1月13日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)