坂本鉄男 イタリア便り 異常気象で冬の晴天はいいが、雨が降らないといろいろ被害も

ヨーロッパは秋から冬が雨期である。だから、正月休みにイタリア旅行に来たいという知人には「昼間が短く天気が悪いのを覚悟しているならともかく、イタリアは夏時間が採用されているので、日照時間が長い春か初秋にした方が、天気は良いし旅行には向いていますよ」とこれまで忠告してきた。

ところが今年は世界的な異常気象のためか、冬に雨が降らないのである。ローマの1月の降雨量は、酷暑の続いた昨年夏と同じ程度しかなかった。降雨による空気の洗浄がないためにスモッグ騒ぎが広がり、ナンバープレートの末尾の番号の偶数・奇数による自動車の通行制限日まで設けられた。

この現象はローマだけで起きているのではない。各地のスキー場は雪不足に悩み、アルプスの雪解け水を集める北伊の湖沼はもちろんのこと、イタリア最大の河川で北伊の農業地帯を潤すポー川の水位も水量も、昨年同期に比べ大幅に低下し農産物に被害が出始めている。

昔はこうした水飢饉(ききん)の時に、わが国なら弘法大師が、イタリアならアッシジの聖フランシスコが現れ、つえで岩をたたいたりすると豊富な水が流れ出たという伝説が残っているが、科学万能の現代ではこうした聖人の出現は望めない。

坂本鉄男

(2016年2月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)