坂本鉄男 イタリア便り イタリア人はパンを食べない? 東欧から輸入の安い冷凍パンのせい

 新米のおいしい季節になった。とはいえ、日本では食生活や好みの変化で米の消費量は減少している。同様にイタリアでもパンの消費量が急激に減っている。

 国が貧しかった時代には、日本でもイタリアでも国民は主食、つまりご飯やパンで腹をいっぱいにしていた。実際、今から150年前のイタリアでは、1人平均1日当たり1キロのパンを消費していたという。それが、ある調査では、1980年には230グラムとなり、2015年には85グラムにまで減った。つまり1年間に30キロ強と、150年前の1カ月分の消費量と同程度にまで落ち込んでいる。

 だが、この減少傾向はまだ続くものと思われる。昔は、日本のどこにいっても、いろいろな品種の米を精米して売っている米屋があった。同じように、イタリアでは、どこの町内にも朝早くからかぐわしい匂いを漂わせるパン屋があったものだ。

 結局、消費者離れによる専門店の減少で、日本でも米をスーパーで買うのと同じようにイタリアでも工場で大量生産されるパンをスーパーや食料品店で購入するのが普通になっている。

 生き残っているイタリアのパン屋にとっての脅威は、東欧から輸入される安い冷凍パンであるという。気の毒にもパン屋の悩みは尽きることがなさそうだ。

坂本鉄男

(2016年10月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)