坂本鉄男 イタリア便り 聖人への道の険しさ

 ポーランド出身の前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世は、死後ただちに、あらゆる方面から「すぐに聖人に」という声が上がったほど近年まれなる偉大な法王であった。だが、いくら偉い前法王でも一足飛びに聖人にはなれない。

 ごく簡単に言えば、専門の機関が聖人の資格審査を始めると「神の僕(しもべ)」と呼ばれ「尊者」の宣言を受ける。続いて聖人になる前の段階の「福者」になる審査を受ける。

 だが、この審査は最低1つの奇跡を起こしたか否かを含む厳しいもので、今でこそ非常に簡素化されたが、昔は数百年を要することも珍しくなかった。

 さて、前法王が起こした奇跡とは、2005年6月2日夜、パーキンソン病を患っていたフランス人修道女が前法王の夢を見たところ、一夜にしてパーキンソン病が治ってしまったというものである。

 だが、このほど科学審査を行った4人の医師団のうちの1人がこの修道女の病名に疑義を示したから大変。今年の10月か11月に予定されていた福者を祝う「列福式」が大幅に遅れる恐れが出てきた。

 もっとも、特別秘書として前法王を長年にわたり支えた現クラコビア大司教は、「前法王に関する奇跡としては実に251件もの事例が提出されたから、別のものを選ぶにしても問題はない」としている。

 それにしても、聖人になる難しさにたいする認識を新たにした次第である。

坂本鉄男
(3月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)