坂本鉄男 イタリア便り 左の甥、右の伯父

 日本にも「世襲政治家」の言葉があるように、イタリアでも父子や親類同士が政治家になる例は多い。大抵は政治信条も似通っているものだが、新首相になったエンリコ・レッタ氏(46)の場合は伯父とはまったく違う。
 新首相はピサ大学卒業後、政界に進出してから一貫して中道左派に属し、欧州議会議員を振り出しに、2006年の第1次プローディ内閣では官房長官、08年から民主党の下院議員、次いで09年からは民主党副書記長に就任した。
 一方、伯父のジャンニ・レッタ氏(78)は中道右派政党「自由国民」に所属する。ジャーナリストを振り出しに、ローマの保守系地元紙の経営者になったが、1994年第1次ベルルスコーニ内閣誕生では請われて官房長官になった。以後、ベルルスコーニ氏が一番信頼する片腕となり、06年の大統領選では大統領候補に推され、ナポリターノ現大統領と戦った経歴の持ち主である。
 今回、レッタ新首相は首相受諾を決心する日の午前中、ベルルスコーニ氏や今回、副首相兼内相になったベルルスコーニ派のアルファノ「自由国民」幹事長、伯父のレッタ氏とともに閣僚人事など最後の詰めの協議を行った。
 伯父と甥が左右二大政党の“領袖”として組閣を協議する珍しい構図になったわけである。
坂本鉄男
(5月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)