坂本鉄男 イタリア便り パンテオンの天窓

 暗い夜空の星をじっくりと眺めていた古代の人々は、われわれが考えるよりずっと天文学に通じ、天体の動きをよく知っていた。

 それを証明しているのが、パンテオンの明かり取り窓だ。ローマの真ん中にあるハドリアヌス帝(在位117~138年)が改築したパンテオンは、古代ローマの建築技術の高さを示すものとして知られる。直径43・3メートルのクーポラ(大円蓋)に覆われた広大な内部の照明は、天井の真ん中に作られた直径9・1メートルの円い穴から入る日の光だけである。

 パンテオンはルネサンス時代の大建築家らにさまざまな研究材料とヒントを与えたが、最近の研究でさらに新しいことが分かった。直径9・1メートルの雨ざらしの円窓から入る太陽光は、毎年4月21日の正午にパンテオンの入り口を正確に照らすというのである。

 伝説によると、4月21日は雌オオカミに育てられた双子の兄弟の一人、ロムルスが紀元前753年にローマの礎を築いたとされる日である。

 つまり、今から2000年近く前からローマ誕生の日が4月21日だと信じられていたことが分かる。同時に、その日の正午に天井の円窓からの光が入り口を照らすよう計算できるだけの天文学の知識があったことになる。明日は自分の目で確かめに行くとしよう

坂本鉄男

(2014年4月20日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)