坂本鉄男 イタリア便り 費用は埋めて待て

 イタリアに限ったことではないのだろうが、保存のための十分な費用がないなら後世のため思い切って埋め直した方がいいと思われる遺跡もあるようだ。

 ローマの北、ローマ時代から重要な街道だったフラミニア街道沿いで2008年、大理石をふんだんに使った壮大な墳墓が発掘された。墓碑からローマ皇帝マルクス・アウレリウス(在位161~180年)に仕えた将軍マルクス・ノニウス・マクリヌスのために建てられたものと分かった。

 当時、発掘に従事した考古学者が冗談で、「2000年に公開されラッセル・クロウがアカデミー主演男優賞を受けた米国の映画、グラディエーターの主人公の墓だ」と言ったことから、世界中に「映画のグラディエーター(剣闘士)の墓が発見された」とのニュースが流されたという、いわく付きの墳墓である。考古学監督局では、この墳墓を中心に古代フラミニア街道を再現する考古学公園を作る計画を立てたのだが、いかんせん緊縮財政を余儀なくされているイタリア政府からの資金供与は絶望的である。

 思いあまった考古学監督局は風雨にさらし破損に拍車をかけるぐらいなら、埋め直すべきであるとの結論に達したという。いにしえの歴史に思いをはせるにも、財布との相談は欠かせない、ということだ。

坂本鉄男
(6月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)